PCB


基礎情報 | 構造・物性

PCBに関する基礎情報

1.PCB問題の経緯

 PCBとは、ポリ塩化ビフェニル(Polychlorinated Biphenyl)の略称で、炭素、水素、塩素からなる、工業的に合成された油状(白色の結晶状の物もあります)の物質です。化学的に安定などの性質を有しているため、電気機器の絶縁油や熱媒体などに使用されてきました。(詳しくは 生産量・用途 のページへ)

 一方、脂肪に溶けやすいという性質から、慢性的な摂取により体内に徐々に蓄積し、さまざまな症状(目やに、爪や口腔粘膜の色素沈着などから始まり、座瘡様皮疹(塩素ニキビ)、爪の変形、まぶたや関節のはれ等)を引き起こすことが報告されています。
 1968年(昭和43年)に発生したカネミ油症事件では、米ぬか油(ライスオイル)中に、脱臭工程の熱媒体として用いられたPCB等が混入したことが原因で、西日本を中心に広域にわたって、米ぬか油による食中毒が発生しました。

 この事件をきっかけにPCBの毒性が社会問題化したことから、1972年(昭和47年)、通商産業省の指導によりPCBの製造が中止となり、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」により、1974年には法律的にもPCBの製造・輸入・使用が原則として禁止されました。

 既に製造されたPCBの処理については、地域住民の理解が得られない等の理由で民間処理施設の設置が進まず、PCBを扱っていた事業者は保管を余儀なくされ、処理されない状態が30年以上も続きました。保管が長期にわたることから、紛失や漏洩等による環境汚染も懸念されています。

 国際的には、2001年にストックホルム条約(POPs条約)が締結され、2028年(平成40年)までにPCB廃棄物を処理することを求めています。日本でも2001年(平成13年)「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特別措置法)」が制定され、国の主導により、2016年(平成28年)7月までの適正処理が義務付けられました。
 しかし、処理が予定通りに進んでいないことや、PCB特別措置法の施行後に微量PCB汚染廃電気機器等の存在が明らかになったことなどから、2012年(平成24年)12月にPCB特別措置法が改正され、処理期限が2027年(平成39年)3月末まで延長されています。


年表 PCB問題の経緯
出来事等
1929年(昭和4年) 米国スワン社(後にモンサント社に合併)生産開始
1954年(昭和29年) 国内生産開始(鐘淵化学工業(株))
1968年(昭和43年) カネミ油症事件発生、PCBの毒性が社会問題化
1972年(昭和47年) 行政指導(通商産業省)により製造中止、回収の指示
1974年(昭和49年) 「化学物質の審査及び製造に関する法律」公布・施行(製造・輸入・使用の原則禁止))
1987年(昭和62年)
 〜1989年(平成元年)
鐘淵化学工業(株)高砂事業所において液状PCB約5,500トンを高温焼却
1992年(平成4年) 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」により特別管理廃棄物として指定
2001年(平成13年) PCB特別措置法公布・施行(保管の届出、処理の義務化など)
2012年(平成24年) PCB特別措置法改正(処理期限の延長)
出典:「PCB(ポリ塩化ビフェニル)問題を正しく理解するために」(愛知県作成パンフレット)に一部追加


環境省/廃棄物・リサイクル対策部
  ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に向けて(パンフレット)

豊田市環境部環境保全課
  PCBの基礎知識
  PCBの処理に関する法律
  国のPCB処理
  海外のPCB処理

PCBの構造・物性

1.構造

(1)ポリ塩化ビフェニル
 PCB(ポリ塩化ビフェニル、図1)は、ベンゼン環(亀の甲)が2つつながったビフェニル骨格の水素(H)が塩素(Cl)で置換されたものの総称です。置換塩素の数と位置によって計算上209種の異性体が存在し、実際の市販品も100を越えるPCBが確認されています(市販のPCBは、PCB単体の混合物)。
 1881年にドイツのシュミットとシュルツによって初めて合成され、1921年にスワン社(アメリカ合衆国、後にモンサントに吸収)によって工業化されました。日本では鐘淵化学工業(1954年[昭和29年>)が「カネクロール(KC-****)」の商品名で、三菱モンサント(1969年<昭和44年>、現三菱化学)が「アロクロール(Ar-****)」の商品名で、生産を開始しました。ちなみに商品の規格として、鐘淵化学は、KC-500("KC"=カネクロール、"500"=5塩素置換体)を、三菱モンサントは、Ar.1254("Ar"=Arocrol(アロクロール)、"12"=PCB、"54"=塩素54%。KC-500<相当品>)を表しています。

図1 PCB

(2)コプラナーPCB
 コプラナーPCBは、基本骨格であるビフェニルの3、4、3'、4'位の水素が塩素に置換した化合物を基本とし、さらに5あるいは5'位が塩素に置換されたPCBの異性体のことを言います(メタ位とパラ位に塩素があるPCB。オルト位に塩素がないPCB)。2、2'、6、6'の位置(オルト位)に塩素があると分子同士がぶつからない様に2つのベンゼン環がねじれた構造を取ります。5,5'(オルト位)に塩素がない場合は、分子同士がぶつからないため、2つのベンゼン環は平面構造を保ちます。この平面構造を取るPCBは、構造的にダイオキシンやフランに類似しており、その他のPCBよりも強い毒性を示します。そのため、コプラナーPCBはダイオキシンやフランと共に「ダイオキシン類」に分類されています。

表1 コプラナーPCBの毒性等換算係数(WHO-TEF)
WHO-TEF(1998) IUPAC No.
3,4,4',5-T4CB 0.0001 #81
3,3',4,4'-T4CB 0.0001 #77
3,3',4,4'5-P5CB 0.1 #126
3,3',4,4'5,5'-H6CB 0.01 #169
2,3,3'4,4'-P5CB 0.0001 #105
2,3,4,4',5-P5CB 0.0005 #114
2,3',4,4',5-P5CB 0.0001 #118
2',3,4,4',5-P5CB 0.0001 #123
2,3,3'4,4'5-H6CB 0.0005 #156
2,3,3',4,4',5'-H6CB 0.0005 #157
2,3',4,4',5,5'-H6CB 0.00001 #167
2,3,3',4,4',5,5'-H7CB 0.0001 #189

2.物性


○化学物質としてのPCB
 (データベース:「PCB」「ポリ塩化ビフェニル」、「カネクロール」、「アロクロール」などで検索してください)
 ・国際化学物質安全性カード(ICSC)-日本語版国立医薬品食品衛生研究所
 ・化学物質安全情報提供システム(kis-net)(神奈川県環境科学センター
 ・化学物質データベース国立環境研究所・化学物質環境リスクセンター)
 ・毒性・物性・用途情報の種類と意味エコケミストリー研究会
基本物性等(*1 分子式、分子量、オクタノール水分配係数、外観、臭い、密度/比重、融点、沸点、水溶解度、有機溶媒溶解度、蒸気圧、ヘンリー定数、主用途、その他の性質、水中分解性、生物濃縮、生分解性、光分解性、適用法令、分析法、生産量、土壌吸着、環境中での検出状況、各種基準値など)がその値と出典付で検索できます。

表2 PCBの特徴
1,不燃性で、しかも加熱・冷却しても性質が変わらない
2,絶縁性、電気的特性に優れている
3,化学的に安定で、酸・アルカリに侵されない
4,水に溶けないが有機溶媒によく溶ける
5,粘着性に優れている
(出典:「化学物質と人間-PCBの過去,現在,未来」,磯野直秀,中央公論社,1975)

表3 PCB(カネクロール)の物理化学的性状
種類 主成分(それぞれ異性体の混合物) 塩素含有量
(%W/W)
比重(100℃) 粘度
(cS、75℃)
蒸留範囲
(℃、760mmHg)
蒸気圧
(35℃,mmHg)
溶解度(水)
(室温、ppm)
対応するAroclorの種類
KC-200 二塩化ビフェニル 32 1.223〜1.243 2〜3 270〜360     Aroclor.1232
KC-300 三塩化ビフェニル 42 1.310〜1.322 3.5〜4.4 325〜360 0.001 0.147 Aroclor.1242
KC-400 四塩化ビフェニル 48 1.376〜1.389 5.4〜7.3 340〜375 0.00037 0.042 Aroclor.1248
KC-500 五塩化ビフェニル 54 1.460〜1.475 12〜19 365〜390 0.00006 0.008 Aroclor.1254
KC-600 六塩化ビフェニル 60 1.539〜1.555 46〜87 385〜420   0.002 Aroclor.1260
KC-1000 KC-500+三塩化ベンゼン   1.452〜1.463 2.2〜2.9 210〜390     Aroclor.T-100
KC-1300 KC-300+二塩化ベンゼン+四塩化ベンゼン   1.330〜1.370a) 0.7〜1.3 -      
a)15℃
(出典:「PCB」,日本科学会編,丸善,1980)


 
表4 カネクロールの成分と対応するアロクロール
種類 主成分、混合物 対応するAroclor
KC-200 二塩化ビフェニル Aroclor.1232
KC-300 三塩化ビフェニル Aroclor.1242
KC-400 四塩化ビフェニル Aroclor.1248
KC-500 五塩化ビフェニル Aroclor.1254
KC-600 六塩化ビフェニル Aroclor.1260
KC-1000 KC-500+三塩化ベンゼン Aroclor.T-100
KC-1300 KC-300+二塩化ベンゼン+四塩化ベンゼン  


図2 PCB製品の異性体分布(カネクロール)
KC-300KC-300
蛍光灯の安定器用、洗濯機や電子レンジなどの家電用といったペーパーコンデンサや熱媒体、潤滑油、感圧複写紙(ノーカーボン紙)などに使用されていました。
KC-400KC-400
蛍光灯の安定器用、洗濯機や電子レンジなどの家電用といったペーパーコンデンサや熱媒体、潤滑油などに使用されていました。
KC-500KC-500
蛍光灯の安定器用、洗濯機や電子レンジなどの家電用といったペーパーコンデンサ、プラスチックに配合する絶縁用や難燃用の可塑剤、塗料・印刷インキ用の添加剤などに使用されていました。
KC-1000
高圧トランス用の絶縁油として使用されてきました。表1-4の通り、KC-1000は、KC-500と3塩化ベンゼンが6:4の割合で含まれています。
KC-600KC-600
塗料・印刷インキ用の添加剤などに使用されていました。
(出典:高菅卓三ら,各種クリーンアップ法とHRGC/HRMSを用いたポリ塩化ビフェニル(PCBs)の全異性体詳細分析方法,環境化学,Vo;.5,No.3,pp.647-675,1995)