意見・質問に対する回答

 

 本ホームページで提供されている情報について,いくつかの意見や質問が寄せられています。これらは,以下の4つに大別されますので,それぞれについて分けて回答致します。今後も順次追加していきます。(回答責任者:横浜国立大学大学院 浦野紘平)

なお,意見や質問の多くは,従来型の有害化学物質管理の考え方やリスク評価の考え方から見た意見や質問であり,新しいPRTRによる有害化学物質管理制度の基本的な考え方がまだ理解されていないことを示していると言えます。

両者の違いの要点を以下に列挙しますので,これらの違いをよく理解して本提供情報を活用して頂きたいと思います。

 

  従来の管理方法   PRTRでの新しい管理方法
・リスク評価ができる物質だけを対象とする。
・法に基づく基準値がある。
・環境管理の目標濃度や目標量を国が決める。
・主に人の健康保護を考える。
・主に常時の排出濃度を規制をする。
・リスク評価の情報が不足している物質も対象とする。
・基準値がないものも多い。
・管理目標は自治体/事業者/市民が決める。
・人の健康と生物・生態系の保護を考える。
・年間の排出量/使用量等の自主管理を進める。

                       

      

A.排出量・移動量や使用量の信頼性についての意見・質問
B.環境管理参考濃度(毒性重み付け係数)についての意見・質問
C.毒性重み付け排出量/毒性重み付け農薬使用量についての意見・質問
D.情報の表示方法についての意見・質問

 

排出量・移動量や使用量の信頼性についての意見・質問


質問
(a):届け出られた排出量等の値は信用できるのでしょうか?

回答(a)届出られた排出量等は正しいものとして扱わざるを得ませんが,当初はいくつかの事業所から誤りがあったとの申し出が都道府県(国)に寄せられました。約41,000事業所からの届出に若干の誤りが含まれることは避けられません。

 本提供情報を活用し,毒性重み付け排出量が大きな地域の事業所について,重要な誤りが無いか否かを該当する事業所や地方自治体が確かめることによって,届出の精度も向上できるものと考えています。

質問(b):提供されている届出以外からの排出量や農薬の使用量は正しい値ですか?
回答(b):裾切り以下の事業所,非対象業種の事業所等,自動車,家庭等の届出以外からの排出量や農薬の使用量は,完全に正しい値を求めることは不可能ですので,国や公的機関が出している統計情報等のできるだけ信頼性の高い情報をもとにした正しいと見なすべき推計値ですが、とくに,裾切り以下の事業所からの各物質の排出量の推計量は、毎年大きく変動しており、まだ改善が必要な点が残されています。
 

環境管理参考濃度(毒性重み付け係数)についての意見・質問


質問
(a):環境管理参考濃度は信用できる値でしょうか?
回答(a):日本で環境基準値や指針値のない物質についての環境管理参考濃度は,平成8年度〜11年度に環境庁から(社)環境科学会(責任者:浦野紘平)に委託された「複数媒体汚染化学物質環境安全性点検評価調査」を更新・充実したデータによるものです。この調査結果は,PRTRの対象物質の選定にも利用されたものです。
 
情報源の選定や計算の仕方などの詳しいことは,説明文に記載してありますが,2009年5月現在で入手できた国内外の信頼できる機関からの基準値,指針(ガイド)値,管理参考濃度(RfC),毒性値(ADIやUR)などを収集して選択または算出された値です。

 本提供情報を参考にして,日本の基準値や指針値がない多くの物質についても,各地域,各事業所で,環境管理の目標濃度を定めたり,排出量に重み付けをすることによって,効果的な化学物質の環境安全管理が可能になると考えています。

意見(b):作業環境の許容濃度(TWA)を基に大気環境管理参考濃度を計算する場合に,物質によらず,一律に300分の1にしてよいか。
回答(b):作業環境の許容濃度は,大気環境や住宅等の室内環境の基準値や指針(ガイド)値がない場合にのみ使用することになっています。
 また,従来の大気環境基準や指針値は,物質によって作業環境の許容濃度のおよそ100分の1から1,000分の1の間になっています。当然,本来は物質ごとの毒性の作用機構や曝露形態等によって異なる値とすべきものですが,一つの物質について基準値や指針値を決める場合にも,多くの情報と議論が必要であり,専門家によって意見が異なることも度々あります。
 PRTR制度は,このような議論を行って基準値や指針値を決めるだけの情報がない多くの物質についても対象として管理する制度ですから,詳細な情報が得られ,国内外の公的機関で合意が得られた大気環境基準値または指針(ガイド)値等がない間は,個別物質ごとに個人的な意見や判断で安全係数を変えることはできませんが,安全側すぎても現実的ではないので,平成14年度からは100分の1と1,000分の1の間の300分の1の値を環境管理参考濃度として提案することにしました。
 

環境基準値等のない物質の環境管理参考濃度は,地域や事業者がそれぞれの判断で,各物質についての環境管理目標濃度を決めて自主管理を進める際の参考値として提案したものですから,国が法律に基づいて全国一律に決める環境基準と同じように考えるのは誤りですので,誤解のないようにして下さい。

意見(c):作業環境の許容濃度(TWA)を基に大気環境管理参考濃度を計算する場合に,刺激性を根拠にして許容濃度が定められている物質については,300分の1でも厳しすぎる。
回答(c):質問(b)と類似の意見ですが,米国産業衛生学会(ACGIH)の許容濃度の設定についての説明には,刺激性も長時間曝露されることによって起こる被害であり,他の慢性的な毒性と同様に扱うべきであることが記されています。また,刺激性物質で,大気環境基準や指針値等がある7種類の有機物質について,それらの値とTWAとを比較してみたところ,差の小さいエチレングリコールモノブチルエーテルを除いて,6物質が180分の1から780分の1の間になっていました。このため,平成14年度からはこれらの中間の300分の1にしました。
 なお,PRTR制度は,詳細な議論を行って基準値や指針値を決めるだけの情報がない多くの物質についても対象として管理する制度であり,また,最近は化学物質過敏症などが増えているとされていることから,刺激性も重視すべきと考えています。
 また,環境管理参考濃度は,回答(b)に記したように,国が法律に基づいて全国一律に決める環境基準と同じように考えるのは誤りですので,誤解のないようにして下さい。

意見(d):環境管理参考濃度を計算する場合の元情報の選択理由が示されていないのはおかしい。
回答(d):「説明文」に元情報の選定の考え方や採用する優先順について詳しく説明してあります。また,電子情報として入手可能な情報源は,全てリンクして元情報を確認できるようにしてあります。説明文をよくご覧下さい。

毒性重み付け排出量/排毒性重み付け農薬使用量についての意見・質問


質問(a)
:毒性重み付け排出量や毒性重み付け農薬使用量と環境の安全性とはどのような関係にあるのか?

回答(a):毒性重み付け排出量や毒性重み付け農薬使用量は,従来言われている「リスク」と同じ意味ではありません。従来考えられているリスクは、環境中の濃度(摂取量)と毒性の強さの積から求められていますが,環境中の濃度(摂取量)は、排出源の詳しい排出状況や地域の詳しい気象条件等が分からなければ求められません。PRTRデータは1年間の合計排出量などでその変動と気象条件との関係などを知ることはできませんし、発生源からの距離や飲料水としての利用の有無、浄水場での除去率などによってもリスクは大きく変わります。すなわち、PRTRデータから、全国の市区町村での多くの物質について、従来の考え方によるリスクを推算することは実質的に不可能です。無理に難しい計算をしても現実と合わない仮想的なものしか求められません。
 しかし,工場棟からの排出量または農薬の使用量が多いほど、周辺濃度は、それらにほぼ比例して高くなると考えられますし,同じ排出量や使用量であっても毒性が高い物質ほどリスクが大きくなると考えられます。すなわち、「毒性で重み付け排出量」や「毒性で重み付け農薬使用量」で、周辺の潜在的な危険性の程度を相対的に比較することができます。

 本提供情報を活用すれば,優先的に調査や削減をすべき地域や物質,事業所などが判定できます。

意見(b):リスクを考える場合に分解などによる減少を考慮しないのはおかしい。
回答(b):従来の考え方による広域のリスクを推算する場合には,環境中での分解,沈着,移流,拡散などの様々な要素を考慮して計算する必要があります。しかし,多くのPRTR対象物質についての分解性に関する情報は揃っていませんし,各排出源の詳しい排出状況等も分かりませんので,従来のようなリスク計算は不可能です。意見(a)の回答にも記したように,従来型の考え方で,無理に計算したり,

無い物ねだりをしても進歩はありません。
 また,最もリスクが高くなるのは、排出源または農薬使用先周辺の大気や河川等です。この範囲では,数分間から数時間で移流,拡散してしまいすから,非常に分解性が高い特殊な物質以外は分解を考慮する必要はないと考えています。
 本提供情報を活用すれば,全国の市区町村や多くの物質について,統一した形で相対的な管理の必要性の程度を比較評価することができます。 

情報の表示方法についての意見・質問


意見(a)
:毒性重み付け排出量の分布地図の色の種類が少ない都道府県があり、市区町村の差が分からず,役立たない。

回答(a)
:「毒性重み付け排出量」は,全国の市区町村を統一して比較できるように,全国で中位の位置にある多くの市区町村を黄色とし,それより10倍または10分の1の範囲を区切って5色に分けて表示しました。したがって,全国に比べて大気中に多くの有害化学物質が排出されている東京都では,すべての市区町村が赤またはこげ茶に表記されています。
 都道府県ごとの市区町村別の届出事業所からの毒性重み付け排出量の数値を見ると,それぞれの市区町村の違いがはっきり分かります。また,全国上位200市区町村リストなどで届出事業所からの毒性重み付け排出量が大きくなっている主原因物質,その毒性や用途など,非常に多くの情報が自由に選べるようになっています。

 地図は,入り口の情報ですので,一部分だけ見て分からないとか,役に立たないとか言わずに,詳しく知りたい人は,それぞれの興味のある情報を自由に選んで,活用して下さい。

著作権:エコケミストリー研究会横浜国立大学 環境安全管理学研究室